「みだれ髪」を学生時代、研究していたことがあった。近代的なモチーフと平安文学のような古典的モチーフが入り混ざった、この短歌集が私はとても好きだ。*1
私が「みだれ髪」を手にとったのは、俵万智さんの『みだれ髪 チョコレート語訳』という現代アレンジのみだれ髪だったため、その影響も受けつつ、研究していた頃の知識を朧げながら思い出しつつ意訳してみました。原文訳では与謝野晶子と鉄幹、登美子の恋愛事情が鑑みられたものが多いのですが、今回は主旨と離れてしまうので、無視しています。(そのため専門の方には怒られそうな訳もありますが、関ジャニ∞のファンのお遊びだと思っていただけると幸いです)
関ジャニ∞各メンバーに3つずつ、選んでいます。どの部分にその人らしさを感じたのかは、完全に私の主観ですので悪しからず。
太文字→本文(基本的に原文ママ、旧字)
括弧→自己解釈
*本来の意味からは大きく離れないように、現代風に意訳している部分もあります。
春雨にぬれて君こし草の門よおもはれ顔の海棠の花
(春の雨に濡れた君が私の家に来た夕べ。恥じらう可憐な海棠*2の花よ)
しろ百合はそれその人の高きおもひおもわは艶ふ紅芙蓉こそ
(白百合の君は気高い心。その美貌を思い起こせば艶やかに香る紅芙蓉*3 )
春にがき貝多羅葉の名をききて堂の夕日に友の世泣きぬ
(貝多羅葉*4の名前を聞いて、出家する友人を思って涙してしまった。青春は苦い)
血ぞもゆるかさむひと夜の夢の宿春を行く人神おとしめな
(血が燃える たった一夜の夢の宿で嵩む想い。青春*5に生きる人を 神様、おとしめないで)
くれなゐの薔薇のかさねの唇に霊の香のなき歌のせますな
(紅の薔薇の花びらを重ねたような唇。この唇で魂の香りのしない歌はうたうことができない)
歌にきけな誰れ野の花に紅き否むおもむきあるかな春罪もつ子
(歌に聞いておくれ。誰が野の花の中にある赤い花を否定することができるの。恋の色を持つ赤い花にこそ趣がある。青春の恋という名の罪を持つ人よ)
神の背にひろきながめをねがはずや今かたかたの袖ぞむらさき*6
(神の広い背中に恋い焦がれる。しっかりとした貴方に向かう濃紫の袖)
恋をわれもろしと知りぬ別れかねおさへし袂風の吹きし時
(恋は脆いものだと知った。別れることに耐えられないでいると、袂に風が吹いてきた)
わすれがたきとのみに趣味をみとめませ説かじ紫その秋の花
(忘れられない出来事だった。私はこれ以上あなたに思いを伝えることはしない、あなたを思い出させる紫の秋の花のように)
清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みな美しき
(祇園を通って清水寺へ向かう桜と月が美しい夜。今夜出逢う恋人たちはみんな美しい)
みさういとどしたしみやすきなつかしき若葉木立の中の盧遮那仏
(かっこよくて親しみやすくてどこか懐かしい顔をした、若葉の中にたたずむ盧舎那仏)
ゆく春をえらびよしある絹袷衣(きぬあはせ)ねびのよそめを一人に問ひぬ
(上着を羽織る、春が過ぎ去ろうとしている今。僕はあの頃よりも少しは大人になっただろうか?と一人自問自答した。)
うすものの二尺のたもとすべりおちて蛍ながるる夜風の青き
(貴方との夜の逢瀬、ショールの袖からすべり落ちて流れる蛍の光、夜風は青い)
さびしさに百二十里をそぞろ来ぬと云ふ人あらばあらば如何ならむ
(「貴女に会いたい寂しさに、500キロ*7をひたすら来たんだ」と言う貴方がいたなら、いたとしたらどうしよう)
美しき命を惜しと神のいひぬ願ひのそれは果たしてし今
(命に変えてもこの恋を叶えたかった。美しい命を惜しいと神が言ったから、願いが果たされた今もなおこの命は存在する)
わが歌に瞳のいろをうるませしその君去りて十日たちにけり
(私の歌に瞳の色を潤ませた君が去って十日が経った)
ふりかえり許したまへの袖だたみ闇くる風に春ときめきぬ
(「ごめんね」と振り返りながら、シャツの袖をたたむ君。春の夜の風に貴方の匂いがしてときめいた)
そのはてにのこるは何と問ふな説くな友よ歌あれ終の十字架
(友よ、その旅の終着地に残るのは何?と聞かないで、言わないで。歌は誓いの十字架)
いさめますか道ときますかさとしますか宿世のよそに血を召しませな
(考えを改めさせますか?道徳を説きますか?それとも諭しますか?宿命と呼べるこの世界を置いて、情熱の血を注ぐことはできない)
花にそむきダビデの歌を誦せむにはあまりに若き我身とぞ思ふ
(恋愛をすることを諦めて、ダビデの聖歌を歌うには、自分はあまりにも若すぎる、などと思う)
歌は君酔ひのすさびと墨ひかばさても消ゆべしさても消ゆべし
(酔っぱらって歌を書いたけど、我に返って消してしまった貴方。たとえ歌を消しても消えない恋心)
神よとはにわかきまどひのあやまちとこの子の悔ゆる歌ききますな
(神様、どうか永遠に この子の歌を聞かないで。若き日の迷いと過ちを悔いる歌を)
しら梅は袖に湯の香は下のきぬにかりそめながら君さらばさらば
(上着には梅の香り、服の下には湯の香りを残して、君はサヨウナラを告げる)
それ終に夢にはあらぬそら語り中のともしびいつ君きえし
(あなたの見ている夢はついに夢ではなくなった。遠い夢の中、空想で語っていた灯火は君が現実にしてくれたことで消えた)
(番外編) エイト担
もろき虹の七いろ恋ふるちさき者よめでたからずや魔神の翼
(壊れやすい虹の七色に恋する小さな可愛らしい人たちは、神から背いた悪魔の翼を愛でるだろう)
とき髪を若枝にからむ風の西よ二尺に足らぬうつくしき虹
(東から西へ吹く風で長い髪が絡まる若枝よ。その遠くに見える美しい虹)