深海魚

花びらに埋もれてこのまま 死んでもいいと思った

「クジラとペンギン」歌詞考 - 逆説の恋

 

・はじめに

「クジラとペンギン」は関ジャニ∞ 25枚目のシングル「ココロ空モヨウ」*1通常盤収録のカップリング曲だ。

 

以前、この記事で「大阪ロマネスク」の歌詞解釈をしたのと同様に 今回はこの曲について考えていこうと思う。

 


・視点に関して

まず、タイトルが「クジラとペンギン」ということで、登場人物はクジラとペンギンだとわかる。しかしながら歌詞中には「クジラ」と「ペンギン」といった名詞が登場せず、風景描写のみでクジラとペンギンをあらわしている。

曲中では、

1番「僕」=クジラ、「君」=ペンギン

2番「僕」=ペンギン、「君」=クジラ

と視点が入れ替わっているのが歌詞から読み取れる。

 

また、落ちサビの「思い出が増えるたび…」というフレーズからは クジラとペンギン、両方の視点からも読み取れるような歌詞となっている。

 


・クジラとペンギンの逆説の恋


クジラとペンギンは種属ちがいの「結ばれない恋」を描いた歌詞である。

「言葉じゃ通じ合えない」「抱き合う術もない」「見てきた景色は違う」と、言語や愛情表現、五感においても 隔たりと種属のちがいによる超えられない壁が存在することが歌詞から想像できる。

また、「許す限りの時を一緒にいたい」という歌詞からは、愛し合っているのに 一緒にいられる時間に限りがあること=寿命のちがい が読み取れる。

ちなみに、クジラは種類にもよるが基本的に大型の個体は70年から100年ほど生きるそうだ。一方、クジラと同圏内に生息しうるペンギンの寿命は最長でも20年ほどらしい。ペンギンはクジラの1/3以下の生命しか持っていないのだ。


そんな、種属のちがいによって"結ばれない恋"のクジラとペンギン。しかし、この曲は決して悲観的ではない。


「結ばれない恋だけどずっと愛してる」

と曲の冒頭と、クジラ視点の1番、ペンギン視点の2番のサビで歌われる歌詞。

"だけど"という逆接の接続詞を用いて、「結ばれない」恋を否定して、「ずっと愛してる」という。

数式にすると、

結ばれない恋≠ずっとずっと愛してる

のようになる。

これは、クジラもペンギンも、自らは結ばれない恋だというのは解っているけれど、"結ばれない"という現実を受け入れたくないが故に、"だけど"という逆接が使われているように思える。


この歌詞が、最後のクジラとペンギン両視点から読み取れるサビの中では

「結ばれない恋だってずっとずっと愛してる」

に変化する。

"だって"というのは同列をあらわす接続詞だ。

数式にすると、

結ばれない恋=ずっとずっと愛してる

のようになる。


クジラとペンギンが「結ばれない恋」であるからこそ「ずっとずっと愛してる」。この曲の最後に、結ばれないことさえもお互いに受け入れている様子がうかがえる。

また、「ずっと」が反復されることで 結ばれないことにマイナスな気持ちを抱きながら何度も繰り返された「愛してる」の言葉が、未来への確信と愛の深みをもって「ずっとずっと愛してる」というフレーズに変化している。


結ばれない恋への否定的な気持ちと、前向きな気持ちの葛藤が窺える歌詞が他にもある。


「僕ら出逢ってしまった」という"しまった"の部分に読み取れる後悔の念。

後悔とは、実際の選択肢の前に選択できたはずの可能性についてあらわれる感情のことだ。

この歌詞の中で恋に落ちるクジラとペンギンは、種属も生きる場所も違うため、「出逢わない未来」も存在し得た。

しかし、「出逢ったこと」自体が後悔するに値する、ということは 出逢ってしまったからには恋に落ちて愛し合うことは必然であったことのように理解できる。

 

また、how long… go on…は、和訳すると「いつまで続ける」といったような意味だ。

文法的にいうと、"How long will you go on〜"で「いつまで〜するつもりだ」とかそういう意味にもなる。


よって、サビ後の英語詞は、

(クジラとペンギンのこの関係は)いつまで…いつまで…続くの…続くの…

と読み取れる。


このフレーズが何度も繰り返される一方、

live with you(君と一緒に生きる)という肯定的な英語詞も繰り返される。

「君と一緒に暮らしたい、生きたい」という願望をあらわす英語ではなく、live with youと断定する言い回し。

一緒に生きる、という愛のかたちは揺るがないのだ。

 

 

・まとめ

 

愛しあっているのに、言葉が通じ合えない。ただ、感情が分かり合える。

生まれた場所もいままで見てきた景色も違うけれど、出逢ってからは同じ景色を共有している。

結ばれない恋だと理解しているけれど、愛していて、それは決して否定的な想いではない。


こんな「クジラとペンギン」のパラドックスは、アイドルとファンの距離感によく似ている。

アイドルとファンは同じ人間だけど、埋まることのない一定の距離がある。これは、愛される者(アイドル)/応援する者(ファン)の適切なかたちだ。しかし、この埋まることのない距離に、切なくなる瞬間というのも アイドルを応援していれば必ず訪れるのではないだろうか。


ファンがアイドルに感じる「結ばれない恋」ごころをアイドルがファンに向けて歌う、という"逆転した構図"になるというのも、この曲が面白い理由のひとつである。


切ないのに、どこか暖かいーーークジラとペンギンを聴いた時に抱くこの感情は、確かに私が彼らを想うときの感情とよく似ている。

*1:2013年12月4日発売